とある修理工房にて。
楽器A「あれ、ひょっとして10357?オレだよ、オレ、10358だよ」
楽器B「おお、久しぶり!元気だった?こんなとこで再会出来るとは!」
A「だよな。隣のレーンで一緒に叩かれて、一緒に組み立てられたよなあ。もう工房を出て店に行ってから5.6年になる?」
B「そうだな。それくらいになるなあ。で、今回はどうした?怪我か?見たところとても綺麗じゃないか」
A「ああ。怪我じゃなくて定期メンテナンスさ。ご主人がとにかく優しく丁寧にしてくれるんで、ほとんど怪我なしさ。で、君は?‥‥あらら、よく見たら酷い状態じゃないか?」
B「そうなんだよ。とにかくあいつの扱いが酷くてさ。正直上手くもないから変な音しか出したことないんだよ。もう身体中がボロボロだし、振動も変だから中身もよじれちゃって、いい音がどんなのかも忘れちゃったよ」
A「そっか、そりゃ気の毒だったなあ。あの最期の検品からの選定は、俺たち二人ともSクラスだったのになあ」
B「そう。で、君はあの選定にきた名手がそれまでの自分のよりいいからって、買われて彼の元にいったんだったよなあ。僕は彼の選定書がついたけど、とにかく買われた先の人がガサツで雑。扱い酷いし掃除もしないし、練習もちゃんとせずバンバカ吹くから、バリバリとしか震えたことないんだよ。全身もベコベコ、中身ドロドロで、今回スライドが動かなくなって、ようやく修理さ」
A「そうだったんだ。気の毒に。君は検品の時もエリートだし、選定の時もご主人は君のこともベタ褒めだったんだけどね」
B「君とご主人はきっといいパートナーなんだろうなあ、羨ましい。どんな音になってるんだい?」
A「彼は僕と一緒になってからもどんどん上手くなってね。今じゃペダルのFからハイFまでバツグンにいい音のフォルティシモでビュンビュン。いい感じで身体が振動した時は、僕自身最高に気持ち良くてさ‥‥あ、ごめん、君は大変なのに」
B「いやいや気にしないで。君が幸せそうで僕も嬉しいよ。それにしてもペダルFからハイFか。羨ましいなあ。僕なんかそんな音どころか、もっと間の音も一回も出したことないのだらけだよ。彼はそもそも狭い音域の音しか出ないんだ」
A「君のポテンシャルは最高だったのに。それじゃもったいなさ過ぎるし残念すぎる。同じ楽器に生まれても、いろいろだなあ」
B「でも今回僕の状態があまりに酷いので、全身オーバーホールで組み直しだそうさ。いやあ、君も知っての通りここのマイスターは腕いいからね。出来上がったら身体も気分もスッキリ爽やかだろうから、楽しみで楽しみで」
A「そうだね。きっと凄いリフレッシュになるよ。同じトロンボーン同士、君の未来が少しでも幸せになるよう祈ってるよ」
B「ありがとう」
楽器もパートナーとの出会い次第で、運命が変わってくるというお話でした。
2022年05月26日
トロンボーンたちの運命
posted by take at 21:34| 活動報告