2022年05月27日

「トロンボーンたちの運命」の運命


実は「トロンボーンたちの運命」には後日談がある。


世界的名手ジョセフ・イアン・リンドベッケがメンテナンスに出した10358と、扱いも雑でケチな残念プレイヤーが高額なオーバーホールに渋々ゴーサインを出した10357。

それぞれ名リペアマンにより見事に再生したのはいいのだが‥‥‥


なんと工房が間違えて返納し、名手の元に10357、残念君の手元に10358が。

しかもプレイヤーたちは全く気づかないまま、その後使い続けたそうだ。

どんな音が出て、どんな演奏が繰り広げられたのか。

そして更なるその後彼らが一体どうなったのか、誰も知る由もない。

後は全て、皆さんのご妄想にお任せ致します。




posted by take at 21:51| 活動報告

2022年05月26日

トロンボーンたちの運命


とある修理工房にて。

楽器A「あれ、ひょっとして10357?オレだよ、オレ、10358だよ」

楽器B「おお、久しぶり!元気だった?こんなとこで再会出来るとは!」

A「だよな。隣のレーンで一緒に叩かれて、一緒に組み立てられたよなあ。もう工房を出て店に行ってから5.6年になる?」

B「そうだな。それくらいになるなあ。で、今回はどうした?怪我か?見たところとても綺麗じゃないか」

A「ああ。怪我じゃなくて定期メンテナンスさ。ご主人がとにかく優しく丁寧にしてくれるんで、ほとんど怪我なしさ。で、君は?‥‥あらら、よく見たら酷い状態じゃないか?」

B「そうなんだよ。とにかくあいつの扱いが酷くてさ。正直上手くもないから変な音しか出したことないんだよ。もう身体中がボロボロだし、振動も変だから中身もよじれちゃって、いい音がどんなのかも忘れちゃったよ」

A「そっか、そりゃ気の毒だったなあ。あの最期の検品からの選定は、俺たち二人ともSクラスだったのになあ」

B「そう。で、君はあの選定にきた名手がそれまでの自分のよりいいからって、買われて彼の元にいったんだったよなあ。僕は彼の選定書がついたけど、とにかく買われた先の人がガサツで雑。扱い酷いし掃除もしないし、練習もちゃんとせずバンバカ吹くから、バリバリとしか震えたことないんだよ。全身もベコベコ、中身ドロドロで、今回スライドが動かなくなって、ようやく修理さ」

A「そうだったんだ。気の毒に。君は検品の時もエリートだし、選定の時もご主人は君のこともベタ褒めだったんだけどね」

B「君とご主人はきっといいパートナーなんだろうなあ、羨ましい。どんな音になってるんだい?」

A「彼は僕と一緒になってからもどんどん上手くなってね。今じゃペダルのFからハイFまでバツグンにいい音のフォルティシモでビュンビュン。いい感じで身体が振動した時は、僕自身最高に気持ち良くてさ‥‥あ、ごめん、君は大変なのに」

B「いやいや気にしないで。君が幸せそうで僕も嬉しいよ。それにしてもペダルFからハイFか。羨ましいなあ。僕なんかそんな音どころか、もっと間の音も一回も出したことないのだらけだよ。彼はそもそも狭い音域の音しか出ないんだ」

A「君のポテンシャルは最高だったのに。それじゃもったいなさ過ぎるし残念すぎる。同じ楽器に生まれても、いろいろだなあ」

B「でも今回僕の状態があまりに酷いので、全身オーバーホールで組み直しだそうさ。いやあ、君も知っての通りここのマイスターは腕いいからね。出来上がったら身体も気分もスッキリ爽やかだろうから、楽しみで楽しみで」

A「そうだね。きっと凄いリフレッシュになるよ。同じトロンボーン同士、君の未来が少しでも幸せになるよう祈ってるよ」

B「ありがとう」


楽器もパートナーとの出会い次第で、運命が変わってくるというお話でした。

posted by take at 21:34| 活動報告

2022年05月25日

金属を育てる


とある打楽器の名手が、金管のこれまた名手に対してした質問が、大変興味深い。


「金属を育てているみたいな感覚はありますか?」


育てるかあ‥‥

一番最初に浮かぶのは「金属疲労」。つまり育てるというより、衰えていく方の感覚。

そして「慣れていく」というのはあれど、育てていくっていうのは考えたことどころか、浮かんだことすらなかったなあと。


じゃあ金属疲労があるとして、新品の時が一番元気で、後どんどん下降しているのかと言われれば、そうも思っていない。

人間の身体。延命が進歩し平均寿命が伸びても身体的には二十歳まで育ち、あとは長い時間かけて下降していくのだと聞いたことがある。

そういう意味なら、しばらく吹き込んで新品感がなくなり慣れたなあと思うところまでは「育ててる」と考えてもいいのかもしれない。どれくらいの期間なのかはわからないが。


同時に私たちの場合、楽器だけが育つのではなく、自分も共に変化して「良いペア」になるためのプロセスなのだと思う。いい夫婦になっていく関係性みたいな。

「金属の分子配分が変わっていく」という意見には「それは無いです」と言うリペアマンもいるが、分子かどうかは定かでないとして、吹き手によって楽器の鳴り方が変わることは確か。

ベッケやアレッシが吹けば、下手な人の楽器もいい音が出てよく鳴るようになるだろうし、彼らの選定品やなんなら彼ら自身の楽器を吹かせてもらい「吹きやすいです!」と感激しても、もしその後下手な人が吹いていったら冴えなくなっていく可能性もあるだろう。

弦楽器なんかもそれまで弾いていた人の癖は、鳴りでわかるそう。近いポジションを多用していたか、はたまた遠いポジションをなんてのも、受け継いで直ぐは癖が残っているそうです。もちろん弾いていくうちに、自分の癖がついていくと。


そういう意味では、楽器は演奏家と共に育つ部分はあるのだろうし、なによりも

「誰が育てるのか」

こそが、運命を決めていくのだろう。

金管の場合、演奏家がどんな楽器に出会うかより、楽器の方がどんな演奏家と出会えるかの方が成長という結果に大きな影響があるのだと思います。

posted by take at 13:29| 活動報告

2022年05月24日

悠久の流れを刻む


人間は縛られた生活は窮屈に感じる。取り組む内容もだが、時間やスケジュールにおいても。

よって「休みになったら、ダラダラしゴロゴロ過ごす」という欲求を持っていたりする。

しかし実際にその日を迎え、縛りどころか計画も何も無しにゴロゴロダラダラすると、少しならいいのだろうが、比較的早いタイミングで退屈したりする。


時間の流れというのはどうやっても止まらない。止められる人はおらず、止まったためしもない。

そしてそのノンストップの時間に対し、人類は区切りを付けた。

1秒、1分、60分で1時間、24時間、30日や31日で1ヶ月、12ヶ月で一年、10年、100年で一世紀‥‥

その区切りの中で、ある意味規律という決め事と共に生きていくことを選択した。


北欧の島、白夜で数ヶ月陽が沈まないため「時間の概念で仕事などを設定するのをやめてほしい」と島民が嘆願したというニュースがあったが、おそらく寝たい時に寝て働きたい時に働くというのを完全にフリーにすると、ただ自堕落的に全てがダメになるだろうと想像できる。


つまり、決められた区切りが必要で、それを元に生きていく方が人間は幸せなのだとなる。

この区切りを、たとえ決められてしまっていることであっても、自分で自分流にコントロールしながら取り組むのが充実と満足、成果への道だと思う。

これはスケジュールもそうだが、演奏においても物凄く必要なこと。

つまり自分のビート、そしてそこから派生するリズムというものは、止まらない時間の中に溶けたように曖昧に存在するのではなく、はっきりと示し、自分の思い通りに刻むことこそが、自堕落的印象の演奏にならないポイントの最右翼。


自らが時をきちんと刻むことだ。

posted by take at 13:27| 活動報告

2022年05月23日

共作


そんな美術館巡りも、家人が絵を描き始めてから特にはまったもの。

それが僕の演奏を変えていくのだとしたら、彼女が絵を描くことで僕を遠隔で変えていることに。

つまり僕の演奏は「夫婦による共作」となりつつある。



posted by take at 17:05| 活動報告