2019年05月27日

オーケストラをやめられない


前回のマーラーの演奏会で、子育てのため一旦ブロカートを離れることになった女性がいる。

バイオリンが上手で、御主人の仕事の関係で長期に渡りパリに住んでいた頃も、レッスンを受けながらずっと弾いていたらしい。

本当に待ち望んだ子供。何よりも彼女が一番大切にしたい存在であることは、その見つめる眼差しから一目瞭然。

そんな彼女だから、成功したマーラーの打ち上げでは号泣。本当に苦渋の決断だったようだ。


そんな彼女が、昨日の練習途中から登場。このクール二回目、ブラームスのバイオリン協奏曲の初練習のタイミングで、もう現れてくれた。

今までのように毎回とはいかないが、こられるときは来て弾くようだ。

僕はとても嬉しかったと同時に


「彼女は、オーケストラをやめてめてしまうのは無理だな」


と思った。


休憩時間、楽譜を凝視しながらさらう彼女を暫く眺めていた。

こちらの視線に気付き「あー、どーも」的なタイミングもあるかと思いきや、視線は楽譜に刺さったまま。指と弓を身体に染み込ませることに夢中。ついに僕との意志疎通はなかった。



永くプロとしてオケマンを全うし、定年で離れたが、オーケストラで吹きたくて吹きたくてたまらない人もいる。会話の端々に、オーケストラステージへの憧れが顔を出す。



それなりに永くオケマンをやり、思うところあり転じる人もいる。もちろん全員ではないがそんな人の中には、「もう20年やっかたらいいかなと思って辞めたが、実は後悔している」と語る人も。

20年やったからもう充分ではなく、20年やったから離れてみたら後悔するのだろう。



オーケストラで演奏することに、何ものにも変えられないかけがえのない幸せを感じる人がいる。プロアマ関係なく、そんな人はやめることはできないし、できればやめなくてはならなくならない方がいい。


僕はN響という恵まれた環境で演奏することができている。残りの方が短くなってきてはいるが、ひとつひとつのステージ、一曲一曲が「もう最期かもしれない」と、独りでは到達できないこの幸せな瞬間に、心から感謝しながら音を出したい。



今日N響にて、オケマンであり母であるとあるプレイヤーに、ブロカートの彼女の話をした。


「私が子守りしてでも弾かせてあげたい」


彼女もまた、手放すことが出来ない、そんなステージを愛しながら幸せなときを生きている。


N響練習

posted by take at 21:48| 活動報告