2015年10月22日

振動体


定年を迎えたある金管奏者の話を、人伝に聞きました。

もう仕事として楽器を吹かなければならないわけではない。これからはプレッシャーや義務感から解放されるわけで。ゆっくり休み、そして後の時間はやりたいことをやる。そう思い、楽器には触れなかったそう。

数日経ち、体調が少しづつ優れなくなってくる。だんだん具合が悪くなり、最後は精神的にもまいり気味に。

病院で様々検査。診察も受けるが原因わからず。どんどん悪くなる中、ある医者から

「もう一回楽器吹いてみたらどうですか?」

と言われたそうです。

「いやあ、楽器はもういいです。ずいぶん苦労しましたし、最後の方は若い時のように吹けなくてしんどかったんですから……」

そう言いながらも、帰宅し楽器のケースを開けなんとなく音を出し始め……

数日後、体調は目に見えて良くなり、あの不具合は一体なんだったんだというまでに快復したとのことなのです。


この話を、あるベテランプレイヤーに話したところ

「吉川はいくつから吹いてる?」

「中一だから、12才からですね」

「じゃあ40年くらい吹いてるんだよね。俺なんか50年近くほぼ毎日、人生のほとんどほぼ毎日吹いてるわけよ。だから吹くのが当たり前の身体になってんだから、そんな簡単にやめられないよ」

そっか。そうは考えたことはなかった。その気になれば吹かなくても、他のことに没頭できれば、気持ち的にも時間的にも生きていけるのだと思っていた。

たしかに、人生のほとんど吹いてきたわけで、そんな身体で出来上がっていってるのなら、吹かない自分を、身体も心も許してくれないのかもしれません。


N響定期、練習。ジパング。

posted by take at 16:31| 活動報告